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Q:初めまして。

最近感じる自分の中の感情について、
適切な対処法をご教示いただきたく
相談させていただきます。

私51歳、夫55歳、娘23歳、息子21歳で、
結婚26年目です。

昨年、夫の20年近い不倫が発覚し、
別居を始めて1年になります。

今回の件で夫への信頼は無くなり、
夫に対して許容出来ていた事全てが
許容出来なくなりました。

相談内容というのは、
そういった夫への感情を
娘にも向けてしまう事です。

娘は夫と思考が似ており、
笑いのツボも同じで、
とても馬が合うようです。

そういった事から、
私が嫌だと思う夫の思考や行動を
娘が行う事で、娘を受け入れたくないと
思ってしまいます。

例えば、娘には永くお付き合いしている
彼がいるのですが、
常に彼より勝る人を探しています。

彼はとても娘を大事にしてくれているのに、
トキメキが無いと言い、
良い人が見つかれば乗り換えると言います。

私はこのような不誠実な娘に
夫の裏切りと同じ感情を抱き、
腹立たしさを感じます。

お金の使い方についても、
損得勘定が根付いており、
お金に貪欲な所が夫と重なり
不快感を感じてしまいます。

また2人はとても仲が良く、
2人で温泉や海外旅行に行ったり、
夫は娘の送迎も頻繁にしています。

不倫発覚の際、私は1人で抱える事ができず、
娘に打ち明け今後について相談しましたが、
娘は
「パパが悪い。でも私はパパと似ているから
 理解できるし気持ちもわかる。」
と言いました。

私達夫婦がどのような関係になろうと、
親子関係は良好であってほしいと
願っていますが、私の娘に対する感情は、
裏切った夫と重ねて
敵認定しているように感じます。

また、私の味方になってくれないという
寂しさも感じているように思います。

このような感情と、
今後どのように向き合い、
対応していけば良いでしょうか。

アドバイスよろしくお願いいたします。

【ちひろ・50代・女性・会社員・兵庫県】
     
      
―――――――――――――――――   
   
   
A:FROM 川畑のぶこ
         
信頼していた夫が
20年近くの不倫をしていたと知ったときの
ちひろさんの衝撃と深い心の痛みは
決して言葉で表せるものではないと思います。


そんなお気持ちを丁寧に説明してくださり
ありがとうございます。

夫との信頼が崩壊して別居を決意され、
心のクールダウンを図っているところに、
こんどはそこから派生する
娘さんとの関係の揺らぎを
感じていらっしゃるのですね。

長年連れ添った大切なパートナーの
裏切りを思えば、ちひろさんが周囲に対して
疑心暗鬼になってしまうことは
自然な感情だと思います。

このような裏切りが残した心の深い傷は、
その再発を防ぐために
過剰に反応してしまうこともあります。

これはちひろさんの中に宿る
自然な防衛反応でもあります。

心理学ではこのような現象を
「転移」と呼びます。

転移とは、
もともとフロイトが提唱した概念で、
「過去に重要な人物に対して抱いていた
 感情や期待を、今目の前にいる別の人に
 無意識のうちに向けてしまう現象」
のことです。

たとえば、子どもの頃に
厳しい母親に認めてもらえなかった人が、
大人になって上司や恋人に対して
「もっと認めてくれない」
「評価してくれない」
と感じやすくなるとか、
過去に裏切られた経験があると、
別の人のちょっとした行動でも
「また裏切られるのでは」
と不安になってしまうといったものです。

こうした感情は、
今の相手に対して起こっているようでいて、
実際は「過去の誰か」に感じていたものの
再現です。

転移は感情の過去の心の傷や愛着の記憶に
根ざしたもので、それらを心の奥底に保存し、
それが似たような状況や、
似た雰囲気を持つ人に出会ったときに
無意識に呼び起こすもので、
意識的に行われるものではありません。

ちひろさんが夫から受けた長年の裏切り
(=深い傷・怒り・失望)が、
似た価値観や言動を持つ娘さんに
向かってしまうというのは、
典型的な転移のひとつで、
本来は夫に向けるべき怒りや悲しみが、
似た反応を見せている娘さんに
すり替わって表れています。さ

らに、味方になってほしかったのに
中立的だった娘さんへの
怒りや寂しさや孤独感が、
「私を裏切った」夫の姿と重なって
見えてしまっているのかもしれません。

転移への対処法として、まず、
これは娘に対する感情なのか、
それとも夫への感情がすり替わっているのか?
と、いったん立ち止まって考えてみることです。

決して感情を否定するのではなく、
その感情に気づいて、受け止めてあげます。

感情に名前をつけて言語化することを
ラベリングといいますが、たとえば、
「私は怒っている」とラベリングすることで、
脳の感情を司る部分である
扁桃体が落ち着くという研究もあります。

ちひろさんも娘さんに対して
怒りや寂しさや孤独をかんじたときは、
まずそれをラベリングしてみてください。

また、それがどこから来ているのかも
言語化してみます。

「ああ、私は夫に裏切られたことで
 また同じことが起きると思っているのだな」
と。

このようにちひろさんご自身の感情を
言語化して客観視するだけでも、
感情に飲み込まれるのを防げます。

言語化ということでは、
出てきた思いをメモしたり
日記をつけたりするのも有効です。

感情が大きく揺れるときは、
思考も過去や未来へ暴走しがちですが、
そんなときは心を今・ここに戻す
マインドフルネスの実践がとても有効です。

まず呼吸に丁寧に注意を向けて、
吸う息とともに、
今吸っていることに気づき、
吐く息とともに、
今吐いていることに気づきます。

これを数回行うだけでも
ぐんと心が落ち着きます。

そして、今身のまわりに起こっていることに
丁寧に注意を向けていきます。

座っているなら椅子の硬さ・柔らかさ、
体重が支えられている感覚、
部屋の温度の感じ、
お茶を飲んでいるなら
そのカップの感触や温度、
目に入るカップのデザインやお茶の色、
香りやカップを上げ下げするときの音、
唇に触れる感触、すする音、
お茶の味、喉越しなど。


このように五感を研ぎ澄まし
注意を今に戻すことで感情の高ぶりを
落ち着かせることができます。

感情が高ぶっている時は、
このように「反応」せずに「対応」をします。

このことで、夫への怒りと娘への感情が
区別されます。

そして、本当は私は
娘とどうありたいのだろう?
というご自身の素直な気持ちにも
意識を向けて、
その気持ちを大切にしてください。

おそらく、ちひろさんは
娘さんと良好な関係を持ちたいからこそ
裏切られた感じがするのではないでしょうか。

「味方になってほしかった」
「もっと私の気持ちを理解してほしい」
という期待が裏切られると怒りが生まれます。

ですが、人間関係はさまざまな価値観のもと、
ときに分かり合えないことを前提にした
付き合い方が必要になることもあります。

娘さんと夫も、
似ている部分はあると思いますが、
人格も人生もまったく別の存在です。

夫の行為にはちひろさんへの
裏切りがあるでしょうが、
娘さんは母親を裏切ろうとしているわけでは
ありません。

さらに、娘さんの恋愛への姿勢が
必ずしも不誠実とはかぎりません。

もしかしたら、不誠実にならないように、
まだ大きな決定(=婚約や結婚)はせず、
自由恋愛であるがゆえに、
そのあいだに様子をきちんと見て、
悔いのないように相手を選ぼうと
思っているのかもしれません。

そうであれば、それはむしろ誠実な姿勢とも
いえるのではないでしょうか?

自分の気持ちを抑圧して
「長く付き合っているから」
という惰性で、質より量のみを重視して
結婚したなら、後からその抑圧が爆発して、
あのとき心の声に忠実に
生きていればよかったと後悔し、
関係が破綻する可能性もあるわけです。

自分の自然なニーズを確認し、
忠実になり、同時に法を守りながら、
娘さんなりの責任感で
慎重に行動しているのかもしれません。

娘さんは父親の行動に対して非を認めつつも
その動機を理解できると
理解を示したにすぎません。

私たちが相手を思いやるときは
行動を許せなくても、
動機の理解が必要ですし、
それがなければ人間関係に
調和は生まれません。

自分の価値と同じなら味方、
そうでなければ敵という二分法で
判断するのではなく、大切な母と父の関係の中に
徒(いたずら)に巻き込まれてもがく子、
と理解することもできます。

家庭内のいびつなバランスの中で
娘さんなりに必死にサバイブしようと
しているのかもしれませんね。

このように、娘さんも父や母と一緒で、
まだ未熟だけど、失敗も含めて
自分の人生を選びながら
さまざまな経験をして生きているのでしょう。

そのことを信頼できるようになるためにも、
まずちひろさんご自身が、
ままならぬ人生に起きていることから
学び取り、それをバネに前進できる自分なのだ
という自信を身に着けていくことは
大きな課題となってくると思います 。


周囲からの承認によってではなく、
まず私にもっとも近い私自身が私を理解し、
認め、味方でいようという姿勢を
育んでみてください。

他人の承認を自分の安定の軸に
しすぎないことは、自分を守ることにも
つながります。

今、娘さんとの関係に悩む背景には、
ちひろさんの心がまだ大きく傷ついていて
癒えていないという事実があります。

ちひろさんが本当に
娘さんと良い関係を築きたいと願うからこそ、
今の感情を整理しようとしている姿は、
深い愛情の証でもあります。


そのことを認め、まずはご自身のケアを
大切にされてください。

裏切りによって損なわれた
「自尊心」「信頼」「安心感」は、
時間と丁寧な自己対話によって
回復できるでしょうし、そのことは
娘さんとの平穏な関係性にも
つながることでしょう。
       
        
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